Y's Reading Record

沼地のある森を抜けて

2017-07-06

  1. HOME >
  2. Y's Reading Record >

沼地のある森を抜けて

2017-07-06

 10年くらい前に梨木香歩にはまり、よく読んでいたのだが、また最近彼女の作品を読みたくなり、これまで読んでなかった彼女の作品を読みあさっている。ここ最近は、梨木香歩のエッセイ的な作品が多かったのだけれども、久々に彼女の小説を読み、感銘を受けた。これこそ、ジャパニーズ・ファンタシーと言っても過言ではないかもしれない。まずは、書籍の裏表紙に描かれている作品の紹介から。

===============
「はじまりは、「ぬかどこ」だった。先祖伝来のぬか床が、うめくのだ――「ぬかどこ」に由来する奇妙な出来事に導かれ、久美は故郷の島、森の沼地へと進み入る。そこで何が起きたのか。濃厚な緑の気息。厚い苔に覆われ寄生植物が繁茂する生命みなぎる森。久美が感じた命の秘密とは。光のように生まれ来る、すべての命に仕込まれた可能性への夢。連綿と続く命の繋がりを伝える長編小説。」
===============



<Sponsored Link>

 この本を読み終わっての感想は、「いろいろな世界を見させてくれたなー」ということ。そして、とてつもなく満足度の高い小説だった。満腹になったというよりは、とてつもなく質の高い料理をお腹8分目まで気持ち良くいただいた、というのが正直な感想。

 話の冒頭は、ぬか床から、幽霊なのか何なのかよくわからない、得体の知れない人が現れる世界からはじまる。ちょっとだけ、ホラーのような印象もあるが、どちらかというと『家守綺譚』のような、人間と「幽霊(?)」の絆が垣間見えたり、幽霊と人間の暖かみや感情が浮き彫りになり、「えっと、結局何なんだ?」という気持ちに襲われ、どんどん小説を先に読み進めたくなる。そのうち、大自然の中の、人も何も住まない場所にあるクローン生産工場のような場所が舞台となる。しかし、ここが舞台となるのは、10章ある全体のストーリーの中の3章分だけである。しかも、その話は3章、6章、9章と2章ごとに現れる。つまり、その不思議な世界と我々が慣れ親しんだ社会(実は、それほど慣れ親しんではいないのだが)を行ったり来たりしながら話が展開する。

大雑把に話の展開を書くと、
1章、2章 幽霊の話
3章 クローン工場がある不思議な世界の話
4章、5章 主人公が過去を振り返る話
6章 クローン工場がある不思議な世界の話
7章、8章 旅たちの話
9章 クローン工場がある不思議な世界の話
10章 クライマックス
という感じである。

 最後のクライマックスの舞台は島である。小説に描かれる植物から、おそらく沖縄か南国の島が舞台となっていることが垣間見えるが実はそうでもないのかも知れない。ただ、島のシーンは民俗学的な記述があり、そこに粘菌が絡まってくるので、ふと南方熊楠を思い浮かべながら読んでしまう。そして、熱帯の自然の力がみなぎる森に引き込まれて、とてつもなくエキサイティングに心地よく、物語を読み終わってしまった。

 となると、シマというのは、とてつもなく生命が活発に活動し、新たな生命をどんどん生んでいる場所と想定できるかもしれない。ここまで、書いて、果て、一体何のことだろう、と思うだろうが、ネタバレするのが怖いので、何も言えない。とりあえず、とてつもなく面白い、大人のためのファンタジーである。ファンタジーとなると、最後にどのように話が終わるのかが、気になり、ドキドキしながら話を読み進める。よくあるパターンは、悪が駆逐され王国が救われる。迷い込んだ世界から元の場所に無事に帰り着き、日常生活の幸せを噛み締める。または、別れというパターンもあるだろう。



<Sponsored Link>

 さて、このストーリーのエンディングは希望と新しい命だったような気がする。そして、そこにたどり着くまでは、いわゆる恋愛ではなく、細胞同士が惹かれ合うような、そんな愛の描かれかたがしていたように私は感じる。クローン工場のような場所はおそらく、精子を生産する精巣の中だったのではないかと思う。精巣の中の動きを、とてつもないファンタジックに描いてしまえる、というのは梨木香歩ならではと思う。そして、精巣の中で起こっている細胞レベルのことが、我々の慣れ親しんだ社会とシンクロするようかたちで話が進んでいき、エンエィングにたどり着くのだろう。

 しかし、このように考えて「もくじ」を改めて眺めてみると、クローン工場のある不思議な世界の話の章のタイトルは「かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話」とあるのである。おそらく、最後のクライマックスに出てくるシマはこのシマなのだろう。そこに主人公がたどり着き、ぬか床を返す = 精巣にぬか床を返す。

あ、今、わかった!!ぬか床 = 卵巣なのかもしれない。

確かに、ぬか床から卵がどんどんでくるのである。
なるほど。
昔、繁栄していたシマは活発に次から次へと命を生産していた、卵巣と精巣が同じ場所で共存していた場所なのかもしれない。そこから、卵巣がなくなり、シマがどんどんすたれていく。そして、主人公は卵巣を精巣に返しに行く、というか卵巣と精巣を巡り合わせる。そして、主人公も最後は結ばれる。

あー、はっきりとは言えないけど、頭の中で話がつながったような気がした。ということで、どういうことかを知りたければ、皆さんも是非読んでみてください。過去10年で読んだ小説の中で、一番のオススメ小説です。

[amazonjs asin="4101253390" locale="JP" title="沼地のある森を抜けて (新潮文庫)"]



<Sponsored Link>

-Y's Reading Record
-, , , , , , , ,

Copyright© Y's Wise World , 2020 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.