サイモン・シン『フェルマーの最終定理』感想

2024-01-15

ふらっと立ち寄った本屋で文庫本が平積みにされているのを見て、なぜか気になったので買ってしまった本です。

私は数学が大の苦手で、フェルマーの最終定理が一体どういうものかも知りはしないのですが、なぜか気になってしまったのです。

覚悟して読みはじめた結果、文系の私の頭でもそれなりに理解できる内容で、しかも相当におもしろい本でした。

序章に以下のような記載がありました。

「多くの数学者にとって、数学の統一は至上の目標であり、アンドリューの証明は統一後の世界を垣間見せるものだった。彼はフェルマーの最終定理を証明するなかで、数論の領域で戦後得られた重要な成果を結びつけ、予想のピラミッドを積み上げてゆくための基礎を固めたのである。これはもはや、長年未解決だった数学パズルを解くといったレベルの話ではなく、数学そのものの限界を押し広げることにほかならない。」

つまり、フェルマーの最終定理の証明は、古代から現代までの既に明らかになっている数学の定理や問題をつみかせねて初めて証明することができたものであり、その意味でフェルマーの最終定理が証明されるまでの過程を語ることは数学の歴史を語ることとほぼ同義であるということが、この本を読んでよくわかりました。

この本は、要するに数学の歴史の本と捉えることもできるのです。

さて、私はこの本を手に取るまで、「フェルマーの最終定理」を正確には知りませんでした。

フェルマーの最終定理とは1637年頃に、ピエール・ド・フェルマーが書き残したものです。

その内容は以下です。

Xn+Yn=Zn

この方程式はnが2より大きい場合いは整数解をもたない。

フェルマーの定理は、紀元前6世紀に生きたピュタゴラスが証明をした、ピュタゴラスの定理が基礎になっているということもあり、物語はピュタゴラスからはじまります。

まずは。ピュダゴラスの人物像、業績。ピュタゴラス教団の話などが語られます。

そこでは、過剰数(約数の和がその数字よりも大きくなる数。例えば12)、不足数(約数の和がその数字よりも小さくなる数。例えば10)、完全数(自然数のうち、その約数の和がその数そのものに等しい数。例えば6)などについて解説がされます。

このように、その時代時代に業績を残した数学者の人物像、業績の内容、その時代に発見された定理の解説などもあり、文系の私でも非常に面白く読むことができたと同時に、勉強になりました。

フェルマーの最終定理の証明については、例えば、オイラーがフェルマーの定理のNが3だった場合には解がないことを証明し、それ以後、フェルマーの最終定理は素数の場合のみ解がない、ということを証明すれば良いということになり、フェルマーの最終定理の証明に大きく近づいた、というように各時代の数学者たちの功績が人物像と一緒に描かれていました。

また、本書にはフェルマーの最終定理に直接関わりがなくとも、ギリシア時代からあった数学パズル、数学クイズの話が紹介されていたりして、楽しく読むことができました。

気になるフェルマーの最終定理の証明の最終段階には二人の日本人数学者が登場しました。

谷村氏と志村氏は「楕円方程式がすべてモジュラーになるだろう」という谷村・志村予想を提唱し、その後ゲルハルト・フライが「もしも谷山・志村予想が証明できれば、フェルマーの最終定理が証明される」ということを明らかにします。

それが、最終的にアンドリュー・ワイズが行なった証明へとつながることになっていくわけです。

数学や数式の内容がわからなくても非常に面白く読める本でした。

本書では、女性の数学者についても、どのような功績を残して、また彼女たちの人生がどのようなもので、その時代においていかに女性が数学を研究するということが難しかったのかが示されていて、興味深かったです。

この本からの学びは、人は人生の目的を持たなければいけない、とよく言いますが、「問いを解くために生きる」というように捉えてもいいのかな、と思いました。

私が解きたい問いはなんだろうか、と考えさせてくれた本でもありました。

教養として非常に良い本だと思いました。

数学嫌いな方にも是非読んでいただきたいと思いました。