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宮下奈都『羊と鋼の森』感想

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宮下奈都『羊と鋼の森』感想

すごい本だと思いました。

一時期、本屋さんに話題の本として目立つ場所に置かれていたので、ご存知の方も多いかと思います。

2016年の本屋大賞、王様のブランチブックアワード大賞2015、キノベス!20161位と史上初の三冠を達成した本のようです。

宮下奈都さんの本は、以前『太陽のパスタ、豆のスープ』を読ませていただきました。

この本を読んだときに、なんか思い浮かぶ情景が薄っぺらく、宮下奈都さんは私には合わない作家さんだなと思いました。

ですので、『羊と鋼の森』が書店の目立つ場所に置いてあっても、手にとって読もうとは思いませんでした。

ただ、本屋大賞を受賞するくらいなんだから、随分と成長したんだろうなと思い、気になってはいました。

しかし、今回、アマゾンのKindle Unlimitedで無料で読むことができたので、早速読んでみることにしました。

さて、読んでみて正直、すごくびっくりしました。

物語の中の登場人物の気持ちの動きが手に取るようにわかるというか、自分の鼓動もドクンとなってしまうような、そんな描写のされ方、情景の描かれ方がしていて、どんどんと引き込まれてしまいました。

また、気持ちだけではなく、景色が動く、変化することも感じられるというか、登場人物の気持ちがひしひしと伝わるそんな作品でした。

例えば、誰にとっても心地の良い春のとっても晴れた日に、好きな人に告白してフラれたとしましょう。

フラれた本人にとっては、一気に景色が変わり、どんよりとした暗く、寒い冬のような景色に見えちゃいますよね。

絶対にその人は春の心地良さなんて感じることはできなくて、いや少なくても感じてはいるのですが、それがフラれたことによって、一気に変わってしまう、そのような気持ちと情景の変化がしっかりと読者に伝わってくる作品なのです。

本当にびっくりしました。

さて、物語はピアノの調律師のお話です。

この題材がまた、知らない世界だったのでとってもいいなと思いました。

簡単にいうと主人公は見習いの調律師で、彼の成長を描いた作品なのですが、彼の周りにいる調律師さんやお客さんとのふれあい、交流によって自分が作り出す音に自信を持っていく、というそんなお話です。

本を読んでいると宮下奈都さんもピアノを弾いていたんだな、ということが伝わってきますし、すっごくしっかりと調査をしているな、ということもわかります。

力作です。

また、ピアノの音を作り上げるためのベースの音が森の音というのももしかしたら、本人の経験からなのかもしれません。

ピアノと森をセットにして二つが入り混じった感じで音が表現されるのが、不思議な感覚でうっとりとしてしまいました。

そして、心の響くセリフもいくつかありました。

・あのとき、高校の体育館で板鳥さんのピアノの調律を目にして、欲しかったのはこれだと一瞬にしてわかった。分かりたいけれど無理だろう、などと悠長に考えるようなものはどうでもよかった。それは望みですらない。わからないものに理屈をつけて自分を納得させることがばかばかしくなった。

・ピアノをあきらめることなんて、ないんじゃないか。森の入り口はどこにでもある。森の歩き方も、多分いくつもある。
調律師になる。間違いなくそれもピアノの森のひとつの歩き方だろう。

・試してみたいと思いながらも、そんな余裕はないと思い込んできた。でも「絶対」はない。「正しい」も「役に立つ」も「無駄」もない。ひとつひとつ外していくと、余裕なんて取るに足らないもののように思えてくる。

いやー、久しぶりに夢中にさせてくれる本を読んだ気がしました。

素晴らしい本でした。

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