宮下奈都の小説『羊と鋼の森』感想

すごい本に出会いました。

久しぶりに夢中にさせてくれる本を読んだ気がしました。

一時期、本屋さんに話題の本として目立つ場所に置かれていたので、ご存知の方も多いかと思います。

宮下奈都さんの本は、以前『太陽のパスタ、豆のスープ』を読ませていただきました。

この本を読んだときに、なんか思い浮かぶ情景が薄っぺらく、宮下奈都さんは私には合わない作家さんだなと思いました。

ですので、『羊と鋼の森』が書店の目立つ場所に置いてあっても、手にとって読もうとは思いませんでした。

ただ、本屋大賞を受賞するくらいなんだから、随分と成長したんだろうなと思い、気になってはいました。

そんななか、友人からこの本はとってもいいのでぜひ読んでみてと勧められたので読んでみました。

正直、すごくびっくりしました。

宮下奈都と小説『羊と鋼の森』

宮下奈都さんは1967年生まれの福井県出身の作家です。

上智大学文学部哲学科を卒業したあとに一般企業に勤めたものの退職します。

無職時代に書いた小説『静かな雨』が「文學界新人賞」の佳作に入賞し、37歳のとき(2004年)に小説家としてデビューします。

『羊と鋼の森』は2015年に出版された小説です。

物語はピアノの調律師のお話です。

2016年の本屋大賞、王様のブランチブックアワード大賞2015、キノベス!2016 第1位と史上初の三冠を達成したという本です。

この題材がまた、知らない世界だったのでとってもいいなと思いました。

簡単にいうと主人公は見習いの調律師で、彼の成長を描いた作品なのですが、彼の周りにいる調律師さんやお客さんとのふれあい、交流によって自分が作り出す音に自信を持っていく、というそんなお話です。

以下、Amazonのページに掲載されているあらすじです。

ゆるされている。世界と調和している。

それがどんなに素晴らしいことか。

言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。

高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、調律の世界に魅せられた外村。

ピアノを愛する姉妹や先輩、恩師との交流を通じて、成長していく青年の姿を、温かく静謐な筆致で綴った感動作。

Amazon.co.jp『羊と鋼の森』

宮下奈都の小説『羊と鋼の森』の感想

この小説を読んでびっくりしたと書きましたが、何にびっくりしたかというと、物語の中の登場人物の気持ちの動きが手に取るようにわかるという点です。

本の中の主人公と同じように自分の鼓動もドクンとなって同時に動きます。

こんな気持ちを言葉で文章で表現ができるたんてすごいと思いました。

また、気持ちだけではなく、景色が動く、変化することも感じられます。

たとえば風がふいて木がザワザワと揺れるシーンがあったとしたら、本当に風が体にあたっているように感じられるのです。

また、登場人物の気持ちの変化が景色に変化を与える、そんな描写もしっかりとできていて驚きました。

たとえば、誰にとっても心地の良い春の晴れた日に、好きな人に告白してフラれたとしましょう。

フラれた登場人物にとって素晴らしい春の景色は、一気にどんよりとした暗い、寒い冬のような景色に変わりますよね。

フラれた登場人物は、絶対に春の心地良さなんて感じることはできなくて、いや少なくても感じてはいるのですが、それがフラれたことによって、一気に変わってしまう。

そんな気持ちの変化から生じる景色の変化が「あ、今、登場人物の気持ちが変わった」とわかるくらいに鮮明に読者に伝わります。

本当にびっくりしました。

また、本を読んでいると宮下奈都さんもピアノを弾いていたんだな、ということが伝わってきます。

そして、すっごくしっかりと調査をしているな、ということもわかります。

ピアノの音を作り上げるためのベースの音が森の音というのも本人の経験からなのかもしれません。

ピアノと森をセットにして二つが入り混じった感じで音が表現されるのが、不思議な感覚でうっとりしてしまいました。

宮下奈都 小説『羊と鋼の森』心に響くセリフ。

あのとき、高校の体育館で板鳥さんのピアノの調律を目にして、欲しかったのはこれだと一瞬にしてわかった。分かりたいけれど無理だろう、などと悠長に考えるようなものはどうでもよかった。それは望みですらない。わからないものに理屈をつけて自分を納得させることがばかばかしくなった。

ピアノをあきらめることなんて、ないんじゃないか。森の入り口はどこにでもある。森の歩き方も、多分いくつもある。
調律師になる。間違いなくそれもピアノの森のひとつの歩き方だろう。

試してみたいと思いながらも、そんな余裕はないと思い込んできた。でも「絶対」はない。「正しい」も「役に立つ」も「無駄」もない。ひとつひとつ外していくと、余裕なんて取るに足らないもののように思えてくる。

まとめ

宮下奈都さんの小説『羊と鋼の森』は2016年の本屋大賞、王様のブランチブックアワード大賞2015、キノベス!2016 第1位の三冠を史上初めて達成した本です。

北海道の大自然の森とピアノをかけあわせて、本を読んでいるのにもかかわらずピアノの音が聞こえてきそうな、心地よい小説です。

また、登場人物の気持ちの変化が手に取るようにわかる小説でした。

絶対におすすめです。

映画化されていたりしますけど、まずは本から読んでいただきたいと思います。